石沈みて木の葉浮く

石は沈みて木の葉浮く

イラスト文章 つれづれ 学生

辛ぇを痛ぇの代替とする話

【日記】

 蝉がしっかりと鳴き出した。辟易。自宅玄関の目の前には木はないが、実家目の前には木がある。勿論蝉もとまる。私や姉は毎度絶叫しながら家に入らなければならなかった。以下本編。

 

 人間の味覚に“辛味”はない。人間が“辛い”と感じたとすれば、それは味覚ではなく“痛み”である。

 ずっと論ぜられてきた話だ。誰が好き好んで痛みを味わいたいのだと、故に私は辛いものが不得手である。同様の理由で炭酸飲料も苦手である(内臓の構造面でも飲めぬ理由はある)。あれらの痛みに対して、私は何の魅力も感じない。ほとんど行かないがカレー屋に行ったとしても、辛さ調節が可能なら一番辛くないものを希望するだろう。

 

 だが今日は某社の某辛いカップ麺を今さっき食べた話をしようと思う。

 

 何で⁉️になるかもしれないが、理由として『誰が好き好んで痛みを味わいたいのか』と述べた、この点にある。

 実はメンタルがイカれてしまった人間、特に完璧主義を拗らせた者は、痛みや苦痛を欲しがることがままあるのだ。のうのうと何もせず生きている現状に焦りを覚え、今すぐにでも牛刀で首を刺したくなることがある。しかしそれが慢性的に依存性を有するものや、数年後以降に甚大な悪影響を及ぼし得るものであってはならないな、という理性は持っている。一年前の自分は、そんな気持ち悪い衝動をどうにか誤魔化す術を見つけた。

 即ち辛いものを食べることである。

 動機がこんなクソ過ぎるため、商品名は出さないでおく。しかし我ながら画期的で、辛いのが苦手すぎるが、基本辛みによる痛みが嫌なだけで味は嫌いどころか好む傾向にあることは忘れてはならない。短期的かつ効果的な痛みのみを得られる上に、側から見ても実際問題でも全くもって健全そのものである。

 

 ということで食べていく。割としっかり見た目としても赤くて笑ってしまった。野菜の混じっていないところを取り敢えず一口食べる。

 あぁ、意外といけるもんだな。香りなど相まって辛いなりにやはり美味い。香りが好きなので最近はわさびをつけてお寿司を食べるなどもしており、辛味のよさも分かってはきていた。“辛さ”がほぼメインの料理は気が引けていたが……。しかし油っぽい太麺と共にジャンキーさが最高だ。ちょっと舌の根本とか扁桃腺やや手前辺りに痛みを感じるくらいdイタタタタタタタ急に痛みが来るなんだこのタイムラグ Chr○meのタブ開き過ぎた上にパワポでフォント埋込形式保存をしたMacB○okかと思うほどの時間差攻撃が来て、取り敢えず追加で口に入れるのを一時停止してしまった。

 嗚呼辛え。こんなんだっけ? そうだった。

 野菜が味覚の救済となっている。そんじょそこらの湯捨てる系カップ麺の中では随一の量を誇るふやけたお野菜が味覚の救済となっている。甘い、採れたての野菜くらい甘い。安過ぎるカップ焼きそばだとマジでキャベツ以外何一つかやくとして入っていないが、この麺は人参さんときくらげぽいのまで入っている。贅沢過ぎる。辛さに死にそうな人間を助けるために多めに入れているのか? もしや。

 

 イテェ……最初はベロの根元と直上が痛かったのに気付けば痛みの全てが舌の先端に集約されている。その昔子供の頃、子供向けの科学系書籍を読んでいた頃『甘い感覚は舌の先端、苦い感覚は舌の根元の方で感じるよ!苦い薬を飲む時は後ろの方に乗せてみようね!』みたいな話を読んだ気がするのだが(確か“○年生が読む云々”みたいなシリーズタイトルだったとは思うが)それを思い出したが、痛みについては載っていなかった!!! 同時に思い出すのは拷問知識を元に書かれた本で、『人間は末端なほどに毛細血管が集中していて痛みを感じやすいよ!重要情報を吐かせる時は指先を潰してみようね!』というような記述。

 つまりそういうことか? 辛味即ち痛みの場合には舌先の方がダメージがデカいと? 実に論理的な考察ではないか。ほぼ間違いないのだろうし、間違えていたとしても何ら不利益は負わない。

 

 でもよく考えたら自分、『痛みがほしい』から食べ始めたんだよな??? じゃあ一発痛い目に遭うために大きく口開け大きめの一口いっちm

 ア゙ア゙ア゙ッぐゥ駄目だなんかこう……何故か口ではなく脳のシナプスではなく鳩尾に近い内臓が激しい抵抗感を示してチッチェ〜く噛みちぎってしまった……お前……喋れたんか…………(鳩尾) 普段は胃とか肝臓とかが喋るけど……お前喋……鳩尾の下って胃以外ある??? じゃあお前は誰なんだよ。

 

 逐一文字を打つのに時間かけていると舌の激痛がマシになってきた。時間経過が痛みをマシにしてくれるということは、私の口内の細胞は何一つ不可逆的に破壊されてはおらず、ただその瞬間の感覚細胞の大荒れに対して健全に反応しているだけに違いない。

 

 ア゙いや駄目だやはりゔォア───呼吸の吐く息の温もりですら突き刺すほどの痛みがやってくる。もう麺自体冷めたのだし、熱さによる追加ダメージはほぼない。さっさと食ってしまえと、痛かろうが痛いのがほしかった貴様だろうと自分が言うがとてもじゃないが三口四口と辛いものを咀嚼することはできない。こんなヘタレのようでは余程外的要因で判断能力が奪われていない限り、自ら命を断つなんて到底できぬのだろうと悟る。

 鼻水としゃっくり出てきた。鼻水は分かるがしゃっくりは何?

 

 痛みが治ってから残りを全部啜って食べた。嗚呼辛かった。痛みを得るためにむしゃむしゃ食べてるとか商品開発の人に言ったら泣いちゃうよね。ごめんね……。美味しいのは違いなかったし辛さも辛かったからまた“そういう時”は買うと思う。美味し。

 じゃあな!

 

  石澄香

 

【好きなもの】

 線香花火の断末魔