石沈みて木の葉浮く

石は沈みて木の葉浮く

イラスト文章 つれづれ 学生

田舎の寂れた薬局さん

【日記】

 あけおめ。お鍋と日本酒の組み合わせしか手っ取り早く他人の力を比較的(目に見える範囲で)要せずかなり確実に己を幸せにできる手段がないかもしれないね。以下本編。

 

 都合により推し精神科おじさんへの通院が物理的距離により面倒になっている。車に乗りたいが、最近意識レベルが常に若干数%ほどおかしいので、20-30分を超える長さで乗りたくない。ちょっと厄介である。

「……」

「えっとね。お眠剤は継続して出してください」

 診察室入った後でおじさんから聞かれることはない。多分私に全体的に緊急性がないのと、私さんがお喋りなので普通にその辺放任的なのだと思う。だから診察室入って一番最初の会話は、これ↑から始まりがちだ。

「卒論を此間提出したんですけど」

「……あ。そっか。卒業だっけ?」

 ボケ始めの祖母を思い起こす。この台詞。

「オホホwww そっか卒業?」

「あい」

「ンフフホホホwwwwwwフッフwww おめでとう。

ありがとうございます。

 おじさんは私が正当に大学一年生だった時から世話になっているため、まあ本当にお世話になったものである。あとこのオメデトウを言ってくださった時はこっちを見てくれていたし。

「で次どうするんだっけ」

「同じ研究室に進学ですね」

「そっかそっか」

 おじさんさぁその話何回カルテに書くん???

 

 精神科医おじさんとの診察日常小話はいいのよ。

 

 それらが終わってから会計待ちで待合に行ったら、大学の知り合いに会っちゃった。個人的には割とガチで最悪である。毎日会うような方ではないが、それはそれとして然程親密ではなくしかしある程度顔合わせたら好意的ご挨拶と時間が許せば世間話も楽しむくらいの!!

 「この後時間あります……?」とか言われちゃったりもしたが、ある訳がないのでさっさと離れたく「体調芳しくないのでぇ(事実)」とお断り申し上げて、さっさと病院を離れた。問題だったのは、その知り合いさんが私が普段使う処方箋薬局に向かっていくのを見てしまったため、エンカウント回避のため他の薬局を探さざるを得なくなったことである。

 

 病院漁りをその市内でしたことがない上、ウロウロ寄り道せずに帰りたかったため行ったことのある+確実に処方箋受付をしている薬局しか行きたくなかった。そうして若干の思案の末に向かってみたのが、かつて親知らずを引っこ抜いた時に使った薬局であった。歯医者怖すぎて書いた怪文→ 歯医者怖え - 石は沈みて木の葉浮く

 その時一回こっきりしか利用したことがなかったが、滅茶苦茶小さい薬局だった。私以外のお客が入っているのを見たことがなく、埃があってもおかしくないとすら思えるほどあらゆる棚が古めかしく、市販薬品や日用品が割高な値段で置いてあり、大きく飾り気のない窓から夕日が差し込むと郷愁的な雰囲気を醸し出す。初めて入った時は「この歯医者の最寄り薬局はここしかないから」と入ったが、外観からしてかなり年季が入っていたことには違いなかった。

 精神科の処方箋を持った私がガタつく自動ドアをくぐると、歯医者の際に訪れた時と同じよう、ヨボ……という擬音すら似合ってしまうくらいのお爺さんが、レジに一人静かに座っていた。

「いらっしゃい」

 にこやかに口角を上げてヨタヨタと立ち上がったお爺さんに「これお願いします」と処方箋の紙を一枚渡すと、お爺さんは何も言わずにそれを持ってまじまじと確認し出した。私は保険証とお薬手帳を出そうとしていたのだが、差し出すそれに目もくれず笑ったまま処方箋をまじまじと読むと、

こりゃあ、おもしろいもんが来たぞ。

 とだけしわがれた声で言って、お爺さんは処方箋を凝視したまま奥に引っ込んでいってしまった。見えない仕切りの奥からパチンパチンと薬のアルミ包装を分ける音がする。いやお薬手帳読んでくれ献血時にも唸られたりしがちな種類を長年服用しているので、素人目線でも飲み合わせを気をつけた方がいい類やぞ、多分。普段使っている薬局は半ばこちらの顔を覚えられていることも多かったりなどがあるので、ここ何年もほぼ詳しい確認もなしに出してくれるものだが。今日初めて来た薬局やぞ。私のあのかかりつけ医おじさんの元からこのやや離れた寂れ薬局に来ることはほとんどないと見受けられるが。

「石澄さんちょっと」

 流石にそう思いつつ立っていると、そう確認に出てこられた。

 ヨボ…なお婆さんが。

 ご老体夫婦経営かよ微笑ましいな。私が物心ついた頃の祖母(先述の今やおボケ遊ばせている)も貴女くらいの雰囲気でしたし、アルバイトだかパートでしたわよ。薬剤師現役は正直尊敬するのだわ。でもお腰が曲がっておられるのだわ。奥で待機のご婦人とレジ対応の旦那様で、処方箋が来た時はお二人で奥でごゆっくり対応されてるのか。こちとら 全然大丈夫なんだけど本当に経営が心配になるわよ

「このお薬の種類、云々だけどねえ、いいの?」

「それねえ、〇〇っつってお出しいただいてるものでえ(デカめ・ゆっくりめ・滑舌良いめ)」

「あらそおなのお」

「そおなのお。ここにお薬手帳ございますけどお」

 おずおず差し出すと、受け取ったお婆さんはまた無言で奥に引っ込んでいった。仕切りの向こうからパチンパチンと聞こえるアルミ包装の音、再開。何なの。

 商品棚に並べられている日用品を眺めながら待っていると、「お待たせえ」とお爺さんが出てこられた。私しかお客居やへん状況下で、死ぬほど混雑する普段の薬局と同じくらい待ったが。店の雰囲気が非常に好みだったため待たされた感じはしなかった。

「お会計ね。****円ね」

「……。あの。まだ保険証を提示してへんのですけど」

「いいの、いいの! 分かるから!」

 どういうことなの分かるて何。普段の薬局なら基本最初に当たり前のように初っ端で提示を求められるんですけど。自分は医療従事者ではないので、その辺りの制度が分からなかった。

「じゃ。此れ。ネ」

 普段の薬局ならnヶ月同じ薬を出され続けていても『最近どうです?眠れないです?』て薬のリストを見てそのようにどの薬剤師さんも会計前に聞いてこられる。それもそれでとても丁寧で温かな接客をいただいているなと感じられて嬉しいものだが。

 いやこのご老体夫妻の薬局また来たいな〜〜〜〜〜〜〜と思ってしまった。だが「おおきに〜」とだけ言ってこの日は普通に帰った。以前親知らずを引っこ抜いた時にかろな〜るを処方された奴と、同一個体とは思ってらっしゃらないだろう。

 ご老体が細々と経営するお店など(悪口だが)田舎にはゴマンとある。あるし、限界集落クソど田舎で幼少を過ごしそこで生活を営む大人達に多大に世話になり可愛がられながら育ってきた私という個人的にはそういう方々と交流がしてみたいし、品質がいいならお金を払って利用することで短期的でも支援めいたものをしたい。だが私ときたら“入ったことのあるファミレス”にしか基本食事に入ることができないほどの臆病者なため、そういうムーブはできない。今回のように、偶発的な成功体験に縋るしかないのである。

 次回におじさんの元へ通院するのは一ヶ月以上先だが、その時車を持っているか分からないが、持っていなかったとして時間に余裕があるか分からないが。可能であれば。またそのご夫婦の薬局へ訪れたいなと切に思う。

 好きなものには好きですと主張したいよね。お前もそう思うだろ。

 

  石澄香

 

【好きなもの】

 タイピングすること

 

【AI提案の記事タイトルへのダメ出しコーナー(新規)】

『好きなもの;タイピングすること』:文末から安易な推測をすな。それが本題ではない。

『診察室から始まる日記』:ラブコメでも始まりそうな上にこれじゃ閉鎖病棟が舞台になってまうやろ。

『成功体験と不安』:少なくとも今回はそんな重いコンテンツではない。

『精神科』:私の書いた記事の5割以上該当するがな。

『おじさんへの通院』:おじさんへ通院はしてねえから。

『好きなものはタイピングすること!石澄香の日記』:だからそれが本題じゃねえから。

『お鍋と日本酒で幸せに!精神科おじさんとの交流』:精神科医と鍋囲んだみたいな絵面になっちゃうからおやめ。

『臆病者の成功体験。次回の通院に期待』:通院確定じゃねえか最悪の次回予告は避けなさい。