石沈みて木の葉浮く

石は沈みて木の葉浮く

イラスト文章 つれづれ 学生

否定される前に否定

【日記】

 大腿筋が筋肉痛になった。マンションの玄関から部屋までエレベーターを使わずに階段を昇り降りするようになったことしか心当たりがない。

 あと身長が最後に記憶していたものより1cm伸びていた。一年ほぼ横になりっぱなしだったことしか心当たりがない。身長を伸ばしたくば、寝ろ(多義)。

 以下本編。

 

 諸事情、というか私が病んでブチ落とした単位関連に関する話を主として、学部内のとある助教とメールでやり取りをさせていただいている。一、二年の時に講義等で会うことも結局なく、ほぼ関わりのない助教であった。しかし、今日昼過ぎに来たその助教からのメールに、『石澄は鳥が好きだろう』という話題がチラリとのぼっていた。

 また『石澄は鳥が好き』か。なんでみんなしてまだ覚えているんだこんなこと。私なんて二年弱付き合っていた同期の顔と名前、半分以上一致していないんだが。

 

 確かに受験期に志望校を探した時は、鳥さんを追っかけ回せる大学がないものかと探していたものだ。まぁ極端に少なかった上非現実的だったため、志望校選びにおいてその高望みは早々に諦めた訳だ。しかしなんと偶然私の入学年度から入って来られた新任のヒトが、鳥さんを追っかけ回す人だった。それが先述の助教である。所属研究所が遠めなので、結局片手で数えるほどしか話したことはない。

 入学当初の私は兎に角見栄を張りたくて、というか周りがレベル高過ぎてめちゃくちゃに背伸びをしていた。釣った川魚を部屋に十何個と置いた水槽で飼っている、爬虫類を追っかけ回している、山に登ってはヒルを持って帰ってくる(かつ己の血を与えて飼う)など、趣味の範囲ですら生物学に染まった同期ばかり、私の卑屈な目についたのだ。

 なんだ。私の趣味なんてレベルの高くない文章書きとお絵描きだぞ。実質的に自分の人生を開拓するにあたり、屁の突っ張りにもならぬ。ならぬ癖に楽しくて延々やってるからこそ趣味であるが……。

 兎角、入学初っ端から私は出遅れ感が凄かった。だからせめてものとでも思ったのか、

「私は鳥が好きです」

 と主張をしていたのだ。件の助教にも新歓の時に話しかけに行って顔を売ったし、別大学から弊学の鳥標本を見に来た教授に勝手に突撃して質問し倒したりもした。私は大した頭ではない上それをカバーする勉強の努力もしたがらない故、そういう“外”のところで奔走して経験を積もうと画策したのだ。まぁ結果が今のこの私であるので、阿呆らしいと言われれば反論できない。

 鳥が好きなのは違いない。ただそれは、明らかに“研究する者”としては知識熱意等が足りなさ過ぎるだけであり。

 

 今日返ってきた助教からのメールに『鳥の話をするゼミを聞きたくはないか?』と書かれているのを見て、ああ三年くらい前は真面目に頑張っていたなとしみじみ思い出した。三年経ってもこの助教に鳥好き学生として覚えててもろてるくらい頑張っていたんやな。結局、当時突撃したその別大学教授から貰った名刺もまだ後生大事に持ってるしな、今も。しかしながらそこに存在したのは、ただ単なる見せかけの『真面目な姿勢』である。それこそ結果を出していないと、屁の突っ張りにもならぬ。逆に道化のようで恥ずかしくも思う。実際「石澄は真面目なのに空回りする、なんでかな」と言われたことがあるし。

 それっぽい行動を見せつけて最終的に特に何も成さない。私はいつもこうしては、その恥を忍んで生きてきた。過去の自分が追い求めていたものを今の自分に与えてやれば、今の自分は満足するのだろうか。

 すまいね……そう思い出して、夜になってから凹むを繰り返している。

 

  石澄香

 

【好きなもの】

 桜の花を食いちぎるスズメ