石沈みて木の葉浮く

石は沈みて木の葉浮く

イラスト文章 つれづれ 学生

なくても困らぬ事物とQOL

 冷凍の刻みネギ。

 蕎麦やらラーメンやらその他やら。パラッと入れられる緑色は、汁物の見た目向上の手軽な手段の一つである。

 一人暮らしとしては、食事は見た目が最悪でも味が最低限よければよい──というのが基本スタンスではあるが、どうも無意識下の私の自我は、一丁前に凄くテン下げしているらしい。三代欲求、衣食住で一番興味がないものが“食”関連なのでこの辺が一番疎かであり、その疎かさが私のQOLへかかるスリップダメージの大部分を占めているだろう。

 人参を切るのすら(私の貧弱さも相まって)厳しくなりつつある切れ味最悪の万能包丁さんを使って、いちいちナマネギを刻むのはツラい。指先が荒れて皮膚組織大崩壊時代の私にとって、洗い物は調理の次に避けたい。だから冷凍刻みネギが冷凍庫に放り込んであるとよい。と思った。

 あと単純に俺はネギが好き。

 

 香水。

 癖毛をパワーという力で押さえつけるワックスは無香料ではないのでと基本的にはつけないが、ワックスなしで過ごす日は特に、あるとよい。満員電車などでつけると顰蹙を買う場合もあるが、幸運なことに私は満員電車にはほぼ乗らぬ。物理的に私へ接近する人間すらおらぬ。

 つけるのは俺、嗅ぐ者も俺。いい香りがすると、身じろぎだけでも楽しくなる。これを書いている今もつけている。諸般の事情により楽しい。

 しかし己にとってのいい香り好きな香りであるからといって、『解釈が一致する』とは限らない。伝わるだろうか。ある程度私は私自身について(外見内面問わず)大雑把な解釈を持っているが、私のような奴がつけるには……今は些か……甘過ぎる香りがするような……ちょっとキショいような…………。似合うのは無臭だろう。ほななんでつけるんや

 

 それから乗りたいと思った時に観覧車に野口英世を一人突っ込める、器量。

 果たして最後に乗ったのは何年前か? バンジージャンプをしてみたいという夢が未だ継続するくらいには高いところが好きなので、観覧車も好きである。クソデカ海とクソデカ船、クソデカいビル群とクソデカい建物、そして地面に刺さったクソデカいノコギリ。すなわち総合的にクソデカい景色はよい景色。

 海沿いは風によりゴンドラはバカみたいに揺れ、景色に興奮した折にイキナリ立ち上がれば同乗者をビビらせる。正直すまんかった。最近やや肥えたので、体重分よく揺らした。

 

 

 ラストに人をダメするクッション。

 なくても困らぬ。全く困らぬ。幼い頃からやや憧れつつ、なんだかんだ家に置かれたことはなく。値段も値段なので買うに買えず。

 しかし世はQOLを金で買う時代。今、うちの家の中で(床以外の)“座れる場所”といえば、デスクチェアと寝床と、何故か業者に電話したのに回収に来てくれなかったまま放置されている古いデスクチェア(という名の小一の時に買ってもらったクソ硬い勉強机の椅子)しかない。運動不足腰痛マンの腰を労る、ええ感じの着席場所がなかった。

 友達にダイレクトマーケティングされてその場で買った。ははは

 大後悔時代にならぬことを祈る。

 

  石澄香