石沈みて木の葉浮く

石は沈みて木の葉浮く

イラスト文章 つれづれ 学生

隙間に挟まるニコ

 ヤベ、明日は週一の“測定”の曜日だ……と思い出したのは昨日のことである。

 実習の一環だ。植物の云々をちょいと測定するのだが、一人では些か荷が重い作業なので二人で行なっている。先週は私と班員のもう一名と測定をしたが、今週分はどうしようかな。先週やってくれたのは彼だから、今週はもう片方の彼に協力を仰ごうか。※実習初日に「俺も留年生だ!」と親指を立て私を激烈に安心させてくれた青年 

 ひとに自分から連絡を取るのが死ぬほど億劫ながら、私はとても偉いので思い出したその時にラインメッセージを投げた。

「云々なので手伝って頂けませんか?」

いいぜ!

返信早い上に軽いなコイツ

 

 そうして本日は昼頃ににょもにょもと測定作業を二人で行なっていた。床に直置きのプランターから無秩序に生え散らかしている草を測るので、実は測定作業は腰が死ぬ。

「測定と記録どっちがどっちやります?」

「私は前回測定をしていましたね」

「じゃ記録頼みました! 俺測ります」

「(うーーーん二年前までの同期にはなかった無駄なき迅速さ……)」

 どっちがどっちやってもいいよ、みたいな段になった時、「えー?どうするどうする?」とその場でウダウダしだす人間がちょと苦手である。そういう時、ちゃっちゃと「変わらんなら私はこれ、貴方はこれ!」と指示めいたものを出してしまうので、私は多分たまに周囲から顰蹙を買っている。

 立って記録する係を任してくれたとは言え、パソコンとタブレットとクソデカファイルとクソデカ本を入れたクソ重リュックが肩にめり込む。何でこんなに一度に沢山荷物を持っているかというと、日中自宅に戻りたくないからだ。自宅で腰を下ろした瞬間、その日は二度と立てなくなるため。

「……十五分後から夏期実習ガイダンスやけど……フーンそれまでに済みそうやな……」

「んん?」

 作業をしながら不意に私が零した独り言に、彼は目を丸めて顔を上げた。

「十五分後? 場所何処だっけ?」

「あー、第三講義室っす」

「理学部棟?」

「そうそう」

「オッケ!」

 元気に指を立てられた。私が口にした件は任意参加のガイダンスだったが、どうやら彼も同様に参加希望だったところガイダンスの存在をぽっかり忘れていた模様。危なかったねぇ私もガンガゼみたいにビリビリ針突き出しながら日々情弱回避しようとしてるから分かりますよぉ……と思いながら、彼にも情報共有をした。人を助けるのはいざという時自分も助けてほしいからだ。

 

 想定時間内に測定が終わったので、予定通り私は件のガイダンスに参加しに行く。書類提出があるだのないだの、期限があるだのないだの、加入保険を確認しろだのスケジュールが変則的だの話を聞いて、忘れんうちにとスマホのリマインダーにメモをする。一項目たりとも……共に行動する友人などがいない場合、期限や予定は忘れるとマジで一撃死なので、完璧主義の几帳面みたいに予定は全部メモをしている。

 はてさてしかし不明事項もあるので直ちに学務に確認しに行かねばなるまいなぁ、とガイダンス終わりに私が立ち上がりかけたところ。

「ふーん……これ書類もう取り行っていい感じかな?」

いや僕の真後ろに座ってたんかい貴方

「ずっと座ってましたよ」

 振り向けば奴がいた上に当たり前のように話しかけてきた。めっちゃ気さくに話しかけてくるやんけ……と自己卑下病み人間は引いてしまうが、彼の場合何処となく気さくさに不審さがないので助かっている。

「書類取りに行くのと、学生保険が切れてないかも分からんですから私は確認しますよ」

「そっかぁ〜俺留年してるから逆に去年の分残ってるかもっす」

「(うーーーーーん私も自身の留年問題についてこのくらいサッパリしたい)」

 特に示し合わせもせずに二人でのこのこと窓口へ確認しに行った。ついでに指定の書類も得た。

「石澄さんは今年度で保険切れますが、まだ大丈夫ですね〜」

「逆に来年度切れるんか……」

「あっ俺はどうですか?(横」

「一八さん(仮名)ですね。えーと、……あっ……」

「「切れとんのかい」」

 ワハハしながら学務を去った。

 切れた保険に関する金銭周りの云々をしに行くのか、彼は「じゃ俺こっち」と別れた。

「今日助かりました! 有難う!」

 と和かに手を振っていった。

 「乙でーす」と思わずオタクの作業通話のオチに使う挨拶を使ってしまったが、私も適当に手を振り返す。今日は随分ニンゲンと会話をした方である。

 アーア今日も最悪講義の進まねー勉強をするかーと図書館に来て、座って、ついさっき「有難う!」とひとに感謝されたことを思い出し、ちょっとニコ……ってなった。

 ちょっといいことあった話。

 

 石澄香

 

【好きなもの】

 遠くなる程少し青みがかる山脈の景色